「開業届は1ヶ月以内に出す」「20万円以下なら申告不要」。検索するとどのサイトにも書いてある通説が、原文を読むと違っていたということが、このサイトの記事作りでは何度もありました。

このページは、当サイトが法令・国税庁・自治体の原文で確認できた勘違いだけを集めた一覧です。それぞれ根拠の原文を引用し、詳しい記事へのリンクを置いています。

「よく見かけるけど原文と違う」ものだけを載せています。原文で確認できなかった話は、 正しそうでもここには入れていません。

勘違い1 開業届は開業から1ヶ月以内に出さないといけない

もっともよく見かける通説ですが、現行の所得税法第229条はそう書いていません

居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し(中略)た場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない。

期限は「1ヶ月以内」ではなく、開業した年分の確定申告期限までです。国税庁の手続案内ページも、届出書の様式に付いている「書き方」も同じ記載です。

ただし、青色申告承認申請書は開業日から2ヶ月という別の期限で動きます。開業届を先延ばしにしていると、青色の期限のほうが先に来る点には注意してください。

→ 詳しくは各職業の開業届の記事で。例: YouTube切り抜きチャンネルの開業届の出し方

勘違い2 出し忘れると罰則がある

所得税法の罰則の章(第238条から第243条)を確認すると、確定申告書を正当な理由なく期限までに提出しなかった場合の罰則(第241条)は定められている一方、開業届(第229条)の提出に関する罰則は挙げられていません

これは「出さなくてよい」という意味ではありません。提出義務は条文に定められていますし、確定申告の義務は開業届とは別に発生し、無申告には罰則の定めがあります。「罰則がないから放置」と「罰則があるから急ぐ」のどちらの通説も、原文とはずれています。

勘違い3 副業の20万円は収入で判定する

国税庁のタックスアンサーNo.1900が確定申告を要する場合として挙げているのは、次の記載です。

給与を1か所から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える人

判定に使うのは「収入」ではなく所得(収入から必要経費を引いた後の金額)で、しかも複数の副業があれば合計額で見ます。「振込額が20万円を超えたら」でも「収入源ごとに20万円ずつ」でもありません。

→ 詳しくは: 収入がいくらから確定申告が必要か

勘違い4 20万円以下なら何も手続きしなくていい

20万円以下で所得税の確定申告をしない場合でも、住民税の申告は別に必要です。たとえば横浜市の案内には、こう明記されています。

合計額が20万円以下の場合には、原則確定申告は不要ですが、市民税・県民税の申告は必要となります。

20万円の基準は所得税だけのルールで、住民税には同様の少額基準がありません。手続きの詳細や様式は自治体ごとに異なるので、お住まいの市区町村のサイトで確認してください。

勘違い5 所得48万円以下なら申告不要

「基礎控除48万円以下なら申告不要」という説明は、令和6年分以前の金額です。国税庁のタックスアンサーNo.1199によると、令和7年度の税制改正で基礎控除の金額が変わり、令和7年分以後は、合計所得金額132万円以下の人の基礎控除は95万円です。

古い記事の「48万円」を今年の判断に使うと、本来は申告不要の人が「必要だ」と誤解する方向にずれます。金額を見るときは、その記事がどの年分の話をしているかを必ず確認してください。

勘違い6 白色申告なら帳簿はいらない

開業届の様式に付いている国税庁の「書き方」には、こう書かれています。

事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき業務を行う全ての方(所得税及び復興特別所得税の申告の必要がない方を含みます。)は、記帳と帳簿書類の保存が必要となっております。

白色申告でも、申告義務がない人でも、記帳と帳簿書類の保存は必要です。「青色にしないから帳簿は不要」ということにはなりません。

→ 詳しくは各職業の会計ソフトの記事で。例: 切り抜きの確定申告に会計ソフトは必要か

勘違い7 開業届を出せば事業所得になる

事業所得か雑所得かは、開業届の有無では決まりません。国税庁の所得税基本通達(35-2の注書き)はこう書いています。

事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。 なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(中略)に該当することに留意する。

判定の軸は実態(社会通念)と帳簿書類の保存です。開業届は判定材料のひとつにはなり得ても、出しただけで事業所得が確定するわけではありません。

勘違い8 30万円未満の備品はいまも一括で経費にできる

青色申告者の少額減価償却資産の特例(30万円未満・年合計300万円まで)は、多くの記事で「使える制度」として紹介されていますが、現行の租税特別措置法第28条の2では「令和8年3月31日までに取得した資産」が対象で、この期日はすでに過ぎています

この特例は過去に何度も延長されてきたため、今後も延長される可能性はありますが、それは改正が公布されてから確認できることです。高額な機材を「一括で経費にできるから」という理由で買う前に、国税庁のページで現在の適用期限を確認してください。なお、10万円未満の少額の減価償却資産20万円未満の一括償却資産(3年均等)の扱いは特例とは別に存在します。

→ 詳しくは各職業の経費の記事で。例: 物販の経費一覧と棚卸

勘違い9 失業手当の受給中に開業したら給付はすべて失う

ハローワークの「再就職手当のご案内」は、支給要件の1つ目に「就職、又は事業を開始したこと」を挙げています。事業の開始も再就職手当の対象で、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上などの要件を満たせば、残日数に応じた手当が支給されます。

また令和4年7月からは、離職後に事業を開始した人について事業の実施期間(最大3年)を受給期間に算入しない特例があり、休廃業した場合に残りの基本手当を受給できる可能性を残せます。申請書類には開業届の写しが挙げられており、申請期間は事業を開始した日などの翌日から2か月以内です。

ただし、順序と個別の状況で結果が変わる論点です。給付制限の有無などの細かい条件もあるため、開業届を出す前にハローワークに相談してください。

この一覧の使い方

通説を見かけたときの確かめ方
  1. 1

    その話の根拠がどこかを探す

    法令なら e-Gov法令検索、税金の実務なら国税庁タックスアンサー、住民税なら自分の市区町村のページ

  2. 2

    原文の該当箇所を読む

    記事の要約ではなく、条文・案内文そのものを読む。年分(令和何年分の話か)を必ず確認する

  3. 3

    自分の状況に当てはめる

    個別事情で答えが変わる論点は、税務署・税理士・ハローワークなどの窓口に確認してから動く

このページの各項目も同じ手順で書いています。

税制は毎年の改正で動きます。このページも、記載時点の原文に基づくものです。判断の前に、各項目に置いた出典リンクから現在の記載を確認してください。