同人の売上が動きはじめると、まず出てくるのが「これは趣味なのか、事業なのか」という問いです。検索すると「帳簿をつければ事業所得になる」という説明が多く出てきますが、通達の原文にはそう書かれていません

同人の売上は通達で雑所得の例示に載っている

出発点は所得税基本通達35-2です。表題は「業務に係る雑所得の例示」で、次の書き出しから始まります。

35-2 次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。

そして列挙された8項目のうち(4)が、同人活動に直接あたります。

(4) 原稿、さし絵、作曲、レコードの吹き込み若しくはデザインの報酬、放送謝金、著作権の使用料又は講演料等に係る所得

つまり原稿やさし絵の報酬は、まず雑所得の側に例示として置かれていて、そこから「事業所得と認められるもの」が除かれる、という順番の作りになっています。「同人だから雑所得」でも「売上があるから事業所得」でもなく、除外にあたるかどうかの判定が本題です。

判定の本体は社会通念上事業と称するに至る程度か

その判定基準は、同じ35-2の注に書かれています。

(注) 事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。

判定の軸はここです。続く一文が、よく「帳簿をつければ事業所得」と要約されている部分です。

なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。

読み方に注意が必要です。ここで定められているのは「帳簿書類の保存がない場合はどうなるか」であって、帳簿があれば事業所得になるとは書かれていません。帳簿は判定の材料として重く扱われますが、判定そのものは前段の「社会通念上事業と称するに至る程度か」で行われます。

300万円は帳簿が無い場合の例外の中の数字

同じ一文をもう一度、括弧の位置だけ見てください。300万円は「帳簿書類の保存がない場合」という条件の内側の、さらに例外として現れます。

  • 帳簿書類の保存がない
  • ただし収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合は、この留意事項の対象から外れる

「300万円を超えたら事業所得」という単独の線引きではありません。同人の売上が300万円に届いていないことを理由に判定が決まるわけでもなく、逆もまた同じです。

開業届はいつまでに出すのか

事業として始めると判断したなら、開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の話になります。期限は「開業から1ヶ月以内」と広く説明されていますが、所得税法229条の現行条文はこうです。

その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない

国税庁A1-5の案内も同じで、「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください」としています。法律も案内も「1ヶ月以内」ではありません。

なお、すぐ隣の230条(給与等の支払をする事務所の開設等の届出)は「その事実があつた日から一月以内に」と定めています。従業員を雇って給与を払う事務所を開いたときの届出はこちらで、こうした別の届出の期限と混ざって「1ヶ月以内」が広まった可能性はありますが、そう断定できる資料は確認できませんでした。期限の事実だけ押さえてください。

青色申告承認申請書の期限は先に来ることがある

青色申告をするつもりなら、開業届より先に締切が来ることがあります。国税庁A1-8の提出時期です。

青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後、新たに事業を開始したり不動産の貸付けをした場合には、その事業開始等の日から2月以内。)に提出してください。

つまり1月15日までに始めたならその年の3月15日まで、1月16日以降に始めたなら開業日から2ヶ月以内です。開業届の期限(確定申告期限まで)より手前に来るので、青色を使うなら実質こちらが締切になります。

イベント頒布とDL販売をどう数えるか

同人は売り方が分かれるので、収入の数え方だけ先に決めておくと後が楽になります。

  • DL販売・委託(BOOTH・DLsite等): プラットフォームの手数料が引かれた入金額ではなく、手数料が引かれる前の総額を収入に立て、手数料は必要経費として別に計上するのが原則の整理です
  • イベント頒布: 現金のやりとりが記録に残らないので、頒布数と単価を自分で記録する必要があります。売上の記録は、上で見た帳簿書類の話に直接つながります

どちらも「合算して1年分でいくらか」を出せる形にしておくのが要点です。個別の計上時期や区分の判断は、税務署または税理士に確認してください。

この記事で断定していないこと

  • あなたの同人活動が事業所得か雑所得かは、この記事では判定できません。通達の判定軸は「社会通念上事業と称するに至る程度か」であり、規模・継続性・記録の有無などの事実関係で決まります
  • 「1ヶ月以内」という通説の出どころ(230条との混同かどうか)は、資料で確認できませんでした