同人の経費で相談が集まるのは、金額の大きい買い物より 「在庫」と「赤字」と「外注」 の3つです。どれも「一般的な副業の経費」の説明には出てこないので、そこだけ切り出して先に置きます。
刷った分ぜんぶは経費にならない
経費になるのはその年に売れた分の原価。残りは**棚卸資産**として翌年へ(所得税法47条)
赤字は給料と通算できないことがある
損益通算の対象は**4つの所得だけ**。業務に係る雑所得は入っていない(69条・No.2250)
外注しても源泉徴収は不要なことが多い
給与を払っていない個人には**204条1項が適用されない**(204条2項2号・No.2502)
どれも条文・国税庁の記載で確認できる部分だけを書いています。個別の判断は税務署・税理士へ。
経費の範囲は条文で2つに分かれている
出発点は所得税法37条と、その解説である国税庁No.2210です。必要経費に算入できる金額は次の2つです。
(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
印刷費のように「売れた分に対応する原価」が(1)、サークル参加費や送料のように「活動を回すための費用」が(2)です。どちらも収益とのつながりを説明できることが前提で、生活のための支出は45条1項1号で必要経費から外されています。
もうひとつ、金額を決めるのは支払った日ではありません。No.2210は「その年において債務の確定した金額」とし、確定の要件を3つ挙げています(12月31日までに債務が成立・給付の原因となる事実が発生・金額が合理的に算定できる)。年末に発注した印刷費は、支払いが年明けでもその年の経費になりうるということです。
同人でよくある支出の整理
頒布した分の印刷費
売上原価として経費
サークル参加費・スペース代
経費にしやすい
頒布のために直接かかった費用です。
会場までの交通費・宅配搬入の送料
経費にしやすい
どのイベントの分かをメモで残します。
画材・トーン・フォント・素材の購入
制作に使う分は経費
私用と兼ねるものは按分の話になります。
表紙や仕上げの外注費
経費
源泉徴収の要否は後述します。
プラットフォームの販売手数料
経費
分配前の総額を収入に立てて、手数料を別に経費で立てます。
液タブ・パソコンなど10万円以上のもの
その年に全額とはならない
減価償却の話になります。
自宅の電気代・家賃
明らかに区分できる分だけ
家事関連費です。
売れ残った分の印刷費
その年の経費にはならない
棚卸資産として翌年へ。
生計を一にする家族へのお礼
経費にならない
No.2210に明記されています。
参考のために買った他サークルの本や趣味の資料
説明できないものは入れない
制作との対応を示せない支出は避けます。
No.2210の「収益とのつながり」を軸にした整理です。個別の可否は状況によります。
刷った分ぜんぶは経費にならない
同人特有の仕組みが棚卸です。No.2210の(1)は「総収入金額に対応する売上原価」なので、その年の経費になるのは頒布できた分に対応する原価だけです。年末に残った在庫は所得税法47条の棚卸資産として12月31日時点で評価し、翌年へ持ち越します。
- 売上原価 = 年初の在庫 + 年内に刷った分 − 年末の在庫
- 12月31日に残部を数えて取得価額で記録する
多く刷った年ほど手元のお金は減りますが、所得はその分だけ下がるわけではありません。金額の考え方はいくらから確定申告が必要かの記事でも扱っています。
イベントの赤字で給料の税金が戻るとは限らない
ここが同人でいちばん誤解されている点です。「参加費と印刷費で赤字だったから、確定申告すれば給料の税金が戻る」という説明を見かけますが、それが成り立つのは事業所得と認められる場合に限られます。
所得税法69条1項の書き出しはこうです。
総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額を計算する場合において、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、政令で定める順序により、これを他の各種所得の金額から控除する
列挙は4つで、雑所得は入っていません。国税庁No.2250の注2も同じことを書いています。
配当所得、給与所得、一時所得および雑所得の金額の計算上損失が生じることはありますが、その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできません
つまり、同人活動が「業務に係る雑所得」に当たる場合、イベントの赤字を給与所得から引くことはできません。雑所得の中で収入と経費を差し引きして所得をゼロにするところまでで止まります。
事業所得か雑所得かの判定軸は開業届の記事で扱った通達35-2です。「赤字を通算したいから事業所得にする」という順番では決まりません。
赤字が出た年に何をするかは、どちらの所得かで変わります。この分岐は自己判定せず、規模や活動の実態を持って税務署か税理士に確認してください。
表紙を外注しても源泉徴収はしなくてよいことが多い
表紙イラスト・ロゴ・仕上げを外注すると、「デザイン料は10.21パーセント源泉徴収して納付する義務がある」という説明に行き当たります。条文を読むと、その義務は誰が払うかで変わります。
所得税法204条1項1号は源泉徴収の対象に次を挙げています。
原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料
表紙の外注はここに当たりえます。ところが同条2項2号で、適用しない場合が定められています。
前項第一号から第五号まで並びに第七号及び第八号に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金のうち、第百八十三条第一項(給与所得に係る源泉徴収義務)の規定により給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人以外の個人から支払われるもの
国税庁No.2502も同じ内容を平易に書いています。
また、給与所得について源泉徴収義務を有する個人以外の個人が支払う弁護士報酬などの報酬・料金については、源泉徴収をする必要はありません
人を雇って給与を払っていない個人が外注費を払う場合、源泉徴収して納付する義務は生じないという整理です。逆に、アシスタントに給与を払っているなど給与の源泉徴収義務がある場合は扱いが変わります。自分がどちらか分からないときは税務署に確認してください。
なお、源泉徴収が不要であることと経費になることは別の話です。外注費は経費として計上し、請求書・支払記録・相手方が分かる資料を残してください。
家族に払った謝礼は経費にならない
イベントで家族に売り子を頼み、お礼を渡すことがあります。これはNo.2210に明記があります。
生計を一にする配偶者その他の親族に支払う給与賃金(青色事業専従者給与は除きます。)は必要経費になりません。
同じ注意事項で、生計を一にする親族に払う地代家賃なども必要経費にならないとされています(実家の一室を作業場として家賃を払う形にしても経費にはなりません)。青色申告をしていて青色事業専従者給与の届出をした場合は別扱いですが、それ自体に要件があります。
液タブやパソコンは金額で扱いが変わる
制作用の液晶タブレットやパソコンは、金額によって処理が分かれます(No.2100)。10万円未満なら取得した年に全額を経費にでき、10万円以上20万円未満なら3年で均等償却する一括償却を選べます。それ以上は法定耐用年数で減価償却します。
[!IMPORTANT] 青色申告者の少額減価償却資産の特例(租税特別措置法28条の2)は、令和8年度の改正で 対象が広がり期限も延びました。現行条文(令和8年法律第64号・2026年8月12日施行)では 取得価額10万円以上40万円未満の資産が対象で、期間は令和11年3月31日まで、 年合計300万円が限度です。「30万円未満・令和8年3月31日まで」と書いてある解説は改正前の内容 なので、金額の大きい買い物の前に条文か国税庁のページで確認してください。
自宅の電気代は明らかに区分できる分だけ
自宅で作業する場合の電気代・家賃・通信費は、生活と制作が混ざった支出(家事関連費)です。No.2210の基準は次のとおりです。
この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
作業専用の部屋がある、作業時間の記録がある、といった区分の根拠を作れる場合に限って按分を検討してください。根拠なく「だいたい3割」と決めた按分は、この基準を満たしません。
分配金から源泉徴収されているかは支払明細で見る
BOOTHやDL販売サイトからの入金は、手数料が引かれた後の金額で振り込まれます。収入は分配前の総額で立て、手数料を経費で立てるのが原則の整理です(入金額をそのまま収入にすると経費が二重に消えます)。
そのうえで、明細に源泉徴収税額の欄があるかを確認してください。204条1項1号には「著作権(著作隣接権を含む。)の使用料」が挙がっており、契約の形によっては源泉徴収の対象になりえます。引かれている場合、その税額は前払いした所得税なので、確定申告で精算します(引かれたまま申告しないと戻ってきません)。
どのプラットフォームがどう扱っているかは、この記事では断定しません。規約と支払明細の表示が正なので、自分が使っているサービスの明細で確認してください。
この記事で断定していないこと
- 個々の支出が経費になるかは、活動の実態と記録で変わります。この記事は判断の枠(37条・No.2210の2区分)と、同人で外しやすい3点を示すものです
- 事業所得か雑所得かの判定はここでは行いません。赤字の扱いも青色申告の可否もここで変わるため、通達35-2の判定軸を踏んだうえで税務署・税理士に確認してください
- 棚卸資産の具体的な評価方法、外注先が海外の個人である場合の扱い、消費税(インボイス)はこの記事の範囲外です
まとめ
- 経費の範囲は売上原価等の直接費用と販売費・一般管理費の2区分(37条・No.2210)。金額は支払日ではなく債務の確定で決まる
- 頒布できた分の原価だけがその年の経費。売れ残りは棚卸資産として翌年へ(47条)
- 損益通算できるのは4つの所得だけで雑所得は入っていない(69条・No.2250注2)。赤字が給料の税金に効くのは事業所得と認められる場合
- 給与を払っていない個人が外注費を払うとき、源泉徴収の義務は生じない(204条2項2号・No.2502)。ただし経費計上と記録は必要
- 生計を一にする家族への謝礼・地代家賃は経費にならない(No.2210)
- 自宅の電気代・家賃は「明らかに区分できる場合のその区分できる金額」まで
次は「会社に知られずに同人活動をするには」を予定しています。公開までは、申告が必要になる金額の基準を同人の売上はいくらから確定申告が必要かで確認してください。

