Kindleダイレクト・パブリッシング(KDP)は、審査に通れば誰でも本を出せて、売れた分だけ印税が振り込まれます。出版社との契約もISBNの取得も要らないので、「気づいたら毎月Amazonから入金がある」という状態に、他の副業よりも早く到達します。

そこで出てくるのが「これは開業届を出す話なのか」という疑問です。結論から書くと、継続して出版し、収益が続いているなら開業届は出す対象になります。出すこと自体は無料で、1枚の書類です。

そしてKindle出版には、他の副業と決定的に違う点がひとつあります。印税の支払元が国外なので、日本の源泉徴収がないことです。これが確定申告の準備の仕方を変えるので、この記事の後半で扱います。

「1ヶ月以内に出さないと」と焦っている人へ。実は期限、そこではありません。

開業届はいつまでに出すのか

「開業から1ヶ月以内」と書いている記事をよく見かけますが、根拠となる所得税法第229条(開業等の届出)はこう定めています。

居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し(中略)た場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない。

国税庁の手続案内も、届出書の様式に付いている「書き方」も同じで、期限はその年分の確定申告期限までです。1冊目を出したのが去年でも、今から出せます。

なお、所得税法の罰則の章(第238条〜243条)には、開業届の提出に関する罰則は挙げられていません。ただし確定申告の義務は開業届とは別に発生します。「開業届を出していないから申告しなくていい」ということにはなりません。

そもそもどこからが事業なのか

第229条の対象は「事業所得……を生ずべき事業」を開始した人です。1冊出して数千円入っただけの人までが対象になるわけではありません。国税庁の所得税基本通達(35-2の注書き)が示す判定の軸はこうです。

事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。 なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(中略)に該当することに留意する。

見られるのは活動の実態と、帳簿を付けて保存しているかです。出版の手段が電子書籍かどうかは基準に挙げられていません。

Kindle出版が事業として扱われる余地があるか

自分はどちらに近いか

  • 1冊出したまま更新もせず、年に数千円の印税が残っているだけ

    雑所得にとどまる可能性が高い

  • 継続的に執筆・出版し、広告や表紙外注などの支出も伴っている

    事業として扱う余地が出てくる

  • 出版は続けているが、帳簿を付けていない

    帳簿の保存がないことが判定に影響しうる

    通達35-2の注書きが挙げているのは収入金額と帳簿の保存です。

断定できる線引きではありません。実態で判定されるので、迷う場合は税務署に確認してください。

KDPの印税には日本の源泉徴収がない

ここがKindle出版の固有事情です。国内の出版社から紙の本の印税を受け取る場合、支払う側が所得税を差し引いて納めます。所得税法第204条第1項はこう定めています。

居住者に対し国内において次に掲げる報酬若しくは料金、契約金又は賞金の支払をする者は、その支払の際、その報酬若しくは料金、契約金又は賞金について所得税を徴収し(中略)これを国に納付しなければならない。 一 原稿、さし絵、作曲、レコード吹込み又はデザインの報酬、放送謝金、著作権(著作隣接権を含む。)又は工業所有権の使用料及び講演料並びにこれらに類するもので政令で定める報酬又は料金

印税は第1号の「著作権……の使用料」に当たる類型で、条文の義務は「国内において支払をする者」に課されています。

一方でKDPの場合、公式ヘルプが説明しているのは米国の源泉徴収税です。

Amazon.com での電子書籍の売り上げと、Amazon.com、Amazon.co.jp、Amazon.com.au、および Amazon.ca での紙書籍の売り上げに対するロイヤリティの支払いには、KDP セレクト グローバル基金からの支払いを含む 30% の米国の源泉徴収税が適用されます。

そして「永住権をお持ちの国が米国と租税条約を締結している場合は、米国の源泉徴収税の軽減措置を受けられる可能性があります」として、税務プロファイル(W-8フォーム)の提出を案内しています。日本の所得税を差し引いて日本の国に納めているわけではありません。

国内の出版社と KDP の違い

国内の出版社からの印税

支払時に日本の所得税が差し引かれ、確定申告で精算される(前払いがある)

KDPの印税

日本の所得税は差し引かれない。差し引かれうるのは米国の源泉徴収税

確定申告

どちらの場合も申告は必要。KDPは前払いがないぶん、納税資金を自分で残しておく必要がある

米国の源泉徴収税は日本の所得税の前払いではありません。日本での確定申告は別に必要です。

実務でこれが意味するのは1点です。振り込まれた印税は、税金を引いたあとの手取りではない。この前提で口座を分けるか納税用に取り分けておかないと、申告の時期に現金が足りなくなります。米国の税金が引かれていた場合の扱い(外国税額控除)は、印税はいくらから確定申告が必要かで扱います。

開業届に書くこと

主な記載欄は、提出先の税務署・マイナンバー・氏名・職業と屋号・納税地・届出の区分(開業に1)・所得の種類(事業所得)・開業日・事業の概要・給与支払の状況です。

「事業の概要」欄は様式の「書き方」で「できるだけ具体的に記載します」とされているので、実態をそのまま書きます。開業届は事業ごとではなく人ごとの届出なので、ブログやほかの副業もやっているなら、まとめて1枚で届け出られます。

開業日については、様式にも「書き方」にも証憑を求める記載はありません。KDPアカウントの作成日、1冊目を公開した日、印税が入りはじめた日のうち、自分が事業を始めたと考える日を書くことになります。

なお、手書きの代わりに、質問に答えて入力すると開業届と青色申告承認申請書を作れるサービスもあります。マネーフォワード クラウド開業届ADは、公式ページによればサービス利用料が0円で、最短5分で書類を作成できるとされています(オンライン提出には同社の確定申告アプリとマイナンバーカードが必要です)。

同時に期限が来る書類が2つある

開業届だけを見ていると見落とすものが2つあります。

開業したときに期限が動きだす3つの書類
  1. 1

    都道府県への事業開始等申告書

    事業の開始の日から15日以内

    個人事業税の申告書。東京都主税局は「事業の開始の日から15日以内」と案内しています。窓口は税務署ではなく都道府県税事務所です。

  2. 2

    青色申告承認申請書

    1月16日以降の開業なら開業日から2ヶ月以内

    国税庁の案内は「青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後、新たに事業を開始した(中略)場合には、その事業開始等の日(中略)から2月以内。)」。

  3. 3

    開業届

    その年分の確定申告期限まで

    所得税法229条。3つのうちいちばん遅い。

開業届本体がいちばん期限が遅いので、それだけを見ていると他の2つを逃します。

Kindle出版で個人事業税の話が現実的になる理由は、法定業種に「出版業」が第1種事業(税率5%)として挙げられていることです。ただし自分で書いた本を自分で出す行為が「出版業」に当たるのか、それとも法定業種に挙げられていない著述の側なのかは、実態で判断される論点です。ここは次の記事(職業欄に何と書くか)でまとめて扱います。

青色申告にすると、要件に応じて55万円・65万円・10万円の青色申告特別控除(タックスアンサーNo.2072)が使えます。Kindle出版は在庫も仕入れもないぶん経費が少なくなりやすいので、控除で課税所得を下げられる価値が相対的に大きい働き方です。

まとめ

  • 期限は「開業から1ヶ月」ではなくその年分の確定申告期限まで(所得税法229条)
  • 事業かどうかの判定軸は活動の実態と帳簿の保存。電子書籍かどうかは基準に挙げられていない
  • KDPの印税には日本の源泉徴収がない。振り込まれた額は手取りではないので、納税資金を自分で残す
  • 期限が先に来るのは都道府県への事業開始等申告書(15日)青色申告承認申請書(2ヶ月)

次は、多くの人の手が止まる開業届の「職業欄」に何と書くかと、印税はいくらから確定申告が必要かです。