印税が確定申告の対象になると分かったとき、次に出てくるのが「会計ソフトは要るのか」です。

この記事では、順位を付けません。代わりに、必要になる条件と、Kindle出版で実際に詰まるところを整理します。詰まるのはソフトの機能比較ではなく、KDPの数字を帳簿の形に落とすところです。

会計ソフトが必要になるのはどこからか

まず、帳簿そのものは会計ソフトの有無に関係なく必要です。開業届の様式に付いている国税庁の「書き方」には、こう書かれています。

事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき業務を行う全ての方(所得税及び復興特別所得税の申告の必要がない方を含みます。)は、記帳と帳簿書類の保存が必要となっております。

白色申告でも記帳と保存は必要です。「青色申告にしないから帳簿はいらない」ということにはなりません。

そのうえで、会計ソフトが実質的に必要になるのは青色申告で55万円・65万円の特別控除を狙う場合です。この控除には複式簿記での記帳が要件に入っており、簿記の知識なしに手作業でやるのは現実的ではないためです。

65万円控除の要件は、ソフト選びに直結する

国税庁のタックスアンサー(No.2072)によると、特別控除は3段階です。

控除額主な要件
10万円55万円・65万円の要件に該当しない青色申告者
55万円事業所得等を生ずべき事業/複式簿記での記帳/貸借対照表・損益計算書を添付して期限内申告
65万円55万円の要件に加えて、e-Taxで申告するか、仕訳帳・総勘定元帳を優良な電子帳簿の要件を満たして保存

Kindle出版は経費が少なくなりやすい働き方なので、経費の記事で書いたとおり控除の効き方が相対的に大きい構造です。ここを狙うなら、ソフトに求める条件は決まります。

  • 複式簿記に対応しているか(55万円以上を狙うなら必須)
  • 貸借対照表・損益計算書を作れるか
  • e-Taxでの申告に対応しているか(65万円を狙う場合の現実的な手段)

ここまでは他の副業と同じです。次からがKindle出版の話です。

KDP固有の難所は3つある

会計ソフトの比較記事にはまず出てこない部分です。Kindle出版で帳簿を付けるときに詰まるのはここです。

KDPの数字を帳簿に落とすときの3つの難所
  1. 1

    入金が売上の約60日後に来る

    KDP公式は「特定の月に最低売上金額を満たすと、その月の末日から約60日後にロイヤリティが支払われます」としています。12月の売上は翌年2月末ごろの入金になります。

  2. 2

    販売地域ごとに通貨が違う

    日本以外のマーケットプレイスで売れると、その地域の通貨でロイヤリティが立ちます。円に換算した記録が必要になります。

  3. 3

    米国の源泉徴収税が引かれている場合がある

    引かれた税額は必要経費ではなく、外国税額控除(No.1240)の材料です。引かれる前の総額と引かれた税額の両方を記録します。

いずれも「ソフトの機能で解決する」ではなく「何を保存しておくか」の問題です。

難所1: 入金と売上の年がずれる

国税庁のタックスアンサー(No.2200)の原則は「年末までに現実に金銭等を受領していなくとも、『収入すべき権利の確定した金額』」です。入金額をそのまま並べる帳簿は、この原則に合いません。

やっておくべきことは単純です。KDPのレポートを月ごとにダウンロードして保存する。 銀行連携で取り込めるのは入金の記録だけなので、レポートを残していないと「この入金はどの月の売上か」が後から復元できなくなります。会計ソフトを選ぶ話の前に、これが先です。

なお、印税のような収入の具体的な計上時期は「それぞれの取引の内容、性質、契約の取決め、慣習などによって判定します」とされており、KDPの契約についてこれを一般化した公的資料は確認できませんでした。レポートと入金明細の両方を揃えて、税務署に確認してください。

難所2: 通貨が複数ある

日本のストアだけで売れているなら円だけですが、Amazon.comなど他の地域で売れると別の通貨でロイヤリティが立ちます。帳簿は円で作るので、換算の記録が必要になります。

どのレートをいつの時点で使うかについては、自分のケースに当てはまる公的な指針をこの記事では確認できていません。複数通貨での入金が発生している場合は、換算前の金額・換算後の金額・使ったレートの3つを残しておいて、税務署か税理士に確認するのが安全です。

難所3: 引かれた税額を別に記録する

KDPの明細で米国の源泉徴収税が引かれている場合、記録すべきは2つです。

記録する数字
  • 引かれる前の総額 — 収入として計上する

  • 引かれた税額 — 外国税額控除の材料として別に残す

  • 手元に入った額だけを収入にする

    収入も税額も過少になります。

  • 引かれた税額を必要経費に入れる

    外国所得税は経費ではなく税額控除の対象です(No.1240)。

片方だけを記録すると、収入も税額も正しく出せません。

選ぶときに効く基準

そのうえで、実際に使う立場で効く基準を挙げます。

1. 銀行口座・クレジットカードと連携できるか

Kindle出版の経費は表紙外注・素材サイト・広告費などカード決済とオンライン決済が中心になりやすいので、明細を自動取得できるかどうかで作業量が変わります。

2. 摘要や備考を自由に書けるか

上の難所1・2で必要になるのは「この入金は何月の売上に対応するか」「換算前はいくらか」というメモです。仕訳に補足を残せるかどうかは、Kindle出版では地味に効きます。

3. e-Tax対応

65万円控除を狙うなら実質的に必要です。

4. 開業届も作れるか

これから開業届を出す人は、開業届と青色申告承認申請をまとめて作れるサービスを使うと手数が減ります。ただし開業のサービスと日々の記帳のソフトは別でも構いません。

5. 無料で試せるか

多くのサービスに無料プランや試用期間があります。実際の画面を触って、自分が続けられるかを確かめてから決めるのが確実です。

たとえばマネーフォワード クラウド確定申告ADは、公式ページによれば銀行やクレジットカードの明細を自動で取り込め、青色・白色の両方とe-Taxに対応しています。このサイトの運営者が別の副業の申告で使ったのもこのソフトです(Kindle出版での使用経験はありません)。開業届のほうはマネーフォワード クラウド開業届ADのように、質問に答えると書類を作れるサービスがあります。

「一番おすすめ」を書かない理由

会計ソフトの比較記事は無数にありますが、この記事では順位を付けません。理由は2つです。

実際に使っていない製品の使い勝手を書けないから。 このサイトは「公式サイトで確認できた内容と、実際に使った経験だけを書く」方針で運営しています。使っていないソフトを使い込んだように書くことはしません。

最適解が人によって違うから。 狙う控除額、白色か青色か、複数通貨の入金があるか、他の副業と合算するか。これらで答えが変わります。

料金・機能・キャンペーンは変わります。各社の公式サイトで最新の内容を確認し、無料で試せる範囲で触ってから決めてください。

まとめ

  • 帳簿の記帳と保存は、白色申告でも必要(国税庁の案内より)
  • 会計ソフトが実質必要になるのは、青色申告で55万円・65万円控除を狙う場合(複式簿記が要件)
  • Kindle出版の難所はソフトの機能ではなく、入金と売上の年のずれ・複数通貨・引かれた米国の税額
  • 最優先でやることはKDPの月次レポートを保存すること。入金明細だけでは対応関係が復元できない
  • 計上時期と為替の換算は一般化できる資料が確認できなかったので、記録を揃えて税務署に確認する

開業の手続きそのものはKindle出版の開業届の出し方で整理しています。