印税が確定申告の対象になると分かったとき、次に出てくるのが「会計ソフトは要るのか」です。
この記事では、順位を付けません。白色でも帳簿が要ること、55万円・65万円控除の要件、選ぶときの基準は職業に関係なく同じなので会計ソフトの選び方・共通編にまとめてあります。ここではKindle出版で実際に詰まるところだけを整理します。詰まるのはソフトの機能比較ではなく、KDPの数字を帳簿の形に落とすところです。
Kindle出版は経費が少なくなりやすい働き方なので、経費の記事で書いたとおり青色申告特別控除の効き方が相対的に大きい構造です。55万円以上を狙うなら複式簿記が要件で、事実上ソフト前提になります。
KDP固有の難所は3つある
会計ソフトの比較記事にはまず出てこない部分です。Kindle出版で帳簿を付けるときに詰まるのはここです。
- 1
入金が売上の約60日後に来る
KDP公式は「特定の月に最低売上金額を満たすと、その月の末日から約60日後にロイヤリティが支払われます」としています。12月の売上は翌年2月末ごろの入金になります。
- 2
販売地域ごとに通貨が違う
日本以外のマーケットプレイスで売れると、その地域の通貨でロイヤリティが立ちます。円に換算した記録が必要になります。
- 3
米国の源泉徴収税が引かれている場合がある
引かれた税額は必要経費ではなく、外国税額控除(No.1240)の材料です。引かれる前の総額と引かれた税額の両方を記録します。
いずれも「ソフトの機能で解決する」ではなく「何を保存しておくか」の問題です。
難所1: 入金と売上の年がずれる
国税庁のタックスアンサー(No.2200)の原則は「年末までに現実に金銭等を受領していなくとも、『収入すべき権利の確定した金額』」です。入金額をそのまま並べる帳簿は、この原則に合いません。
やっておくべきことは単純です。KDPのレポートを月ごとにダウンロードして保存する。 銀行連携で取り込めるのは入金の記録だけなので、レポートを残していないと「この入金はどの月の売上か」が後から復元できなくなります。会計ソフトを選ぶ話の前に、これが先です。
なお、印税のような収入の具体的な計上時期は「それぞれの取引の内容、性質、契約の取決め、慣習などによって判定します」とされており、KDPの契約についてこれを一般化した公的資料は確認できませんでした。レポートと入金明細の両方を揃えて、税務署に確認してください。
難所2: 通貨が複数ある
日本のストアだけで売れているなら円だけですが、Amazon.comなど他の地域で売れると別の通貨でロイヤリティが立ちます。帳簿は円で作るので、換算の記録が必要になります。
どのレートを使うかの原則は、所得税基本通達57の3-2にあります。
その取引を計上すべき日(以下この項において「取引日」という。)における対顧客直物電信売相場……と対顧客直物電信買相場……の仲値……による
つまり原則は取引日のTTM(電信売買相場の仲値)です。事業所得等の計算では、継続適用を条件に、収入は取引日のTTB(電信買相場)によることや、前月・前週の平均相場などを使うことも認められています。レートは「主たる取引金融機関のもの」が原則です。
ただしこれは外貨建てで受け取る取引の換算の一般則で、KDPの入金(Amazon.co.jp分は円で入金されます)にどう当てはめるかまで示した資料は確認できませんでした。複数通貨での入金が発生している場合は、換算前の金額・換算後の金額・使ったレートの3つを残しておいて、税務署か税理士に確認するのが安全です。
難所3: 引かれた税額を別に記録する
KDPの明細で米国の源泉徴収税が引かれている場合、記録すべきは2つです。
引かれる前の総額 — 収入として計上する
引かれた税額 — 外国税額控除の材料として別に残す
手元に入った額だけを収入にする
収入も税額も過少になります。
引かれた税額を必要経費に入れる
外国所得税は経費ではなく税額控除の対象です(No.1240)。
片方だけを記録すると、収入も税額も正しく出せません。
Kindle出版で足す基準
共通の5つの基準(口座・カード連携/クラウドかインストールか/e-Tax対応/開業届も作れるか/無料で試せるか)に、Kindle出版では次を足します。
摘要や備考を自由に書けるか。 上の難所1・2で必要になるのは「この入金は何月の売上に対応するか」「換算前はいくらか」というメモです。仕訳に補足を残せるかどうかは、Kindle出版では地味に効きます。
経費はカード決済とオンライン決済が中心。 表紙外注・素材サイト・広告費など、明細を自動取得できるかどうかで作業量が変わります。
たとえばマネーフォワード クラウド確定申告AD
は、公式ページによれば銀行やクレジットカードの明細を自動で取り込め、青色・白色の両方とe-Taxに対応しています。このサイトの運営者が別の副業の申告で使ったのもこのソフトです(Kindle出版での使用経験はありません)。開業届のほうはマネーフォワード クラウド開業届AD
のように、質問に答えると書類を作れるサービスがあります。
まとめ
- 帳簿の義務・控除の要件・選ぶ基準は共通編へ
- Kindle出版の難所はソフトの機能ではなく、入金と売上の年のずれ・複数通貨・引かれた米国の税額
- 最優先でやることはKDPの月次レポートを保存すること。入金明細だけでは対応関係が復元できない
- 為替換算の原則は取引日のTTM(所得税基本通達57の3-2)。計上時期はKDP契約について一般化した資料が確認できなかったので、記録を揃えて税務署に確認する
開業の手続きそのものはKindle出版の開業届の出し方で整理しています。

