印税が毎月入るようになると、次に気になるのが「いくらから確定申告が必要なのか」です。
Kindle出版の場合、ここに他の副業では出てこない2つのねじれが乗ります。入金が売上の約60日後に来ることと、米国で税金が引かれていることです。基準そのものは職業に関係なく同じなので、この記事はKindle固有の2つのねじれを中心に整理します。
- 会社員の副業としてやっているなら、印税を含む給与以外の所得が年間20万円を超えたら、所得税の確定申告が必要(印税単独ではなく、ブログの広告収入や他の副業と合算)
- 専業(給与なし)なら、基礎控除(令和7年分以後は所得95万円)がひとつの目安
- 所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告は別に必要
判定に使うのはいずれも「入金額」ではなく「所得」=収入から必要経費を引いた残りです。印税が年間28万円入っていても、表紙デザインの外注に5万円、資料の書籍代に4万円かけていれば、所得は19万円です。何が経費になるかは経費にできるもの一覧で扱います。
共通の基準は共通編へ
20万円ルールの原文・専業の基礎控除・住民税の申告・収入をいつの年に数えるかは職業に関係なく同じなので、確定申告はいくらからの共通編に原文の引用つきでまとめてあります。住民税がどう会社に通知されるかは会社に知られるのかで扱っています。
入金は売上の約60日後に来る
ここからがKindle出版の固有事情です。KDPの支払いサイクルは公式ヘルプでこう説明されています。
特定の月に最低売上金額を満たすと、その月の末日から約 60 日後にロイヤリティが支払われます
つまり12月に売れた分の印税は、翌年2月末ごろの入金になります。さらに、最低支払い金額に達しない月は支払いが行われず、残高として繰り越されます。「今年いくら入金されたか」と「今年いくら売れたか」は一致しません。
では、どちらで申告するのか。国税庁のタックスアンサー(No.2200)が示す原則はこうです。
その年において収入すべき金額は、年末までに現実に金銭等を受領していなくとも、「収入すべき権利の確定した金額」になります。
その年の12月20日に商品を売って、その代金は年を越して翌年1月10日に受け取ったような場合には、商品を売ったその年の収入になる
12月 — 売れる
KDPのレポートに売上が計上される
翌年2月末ごろ — 入金
「その月の末日から約60日後」(KDP公式)
申告
入金額をそのまま並べると年がずれる。権利確定主義で判断する
計上時期は「それぞれの取引の内容、性質、契約の取決め、慣習などによって判定します」(No.2200)。最終的な扱いは税務署に確認してください。
ただし、印税のように著作権を使わせて得る収入の計上時期を、いつと判定するかは取引の内容や契約の取決めで決まると同ページに書かれています。KDPの契約についてこれを一般化して示した公的資料は確認できませんでした。ここは推測で埋めるべきところではないので、確定申告の際にKDPのレポート(売上月ベース)と入金明細の両方を用意して、税務署に確認してください。
実務的にやっておくべきことははっきりしています。KDPのレポートを月ごとにダウンロードして残すことです。入金明細だけでは、どの月の売上に対応する入金なのかが後から追えなくなります。
米国で引かれた税金はどうなるのか
もうひとつのねじれです。KDPの公式ヘルプはこう説明しています。
Amazon.com での電子書籍の売り上げと、Amazon.com、Amazon.co.jp、Amazon.com.au、および Amazon.ca での紙書籍の売り上げに対するロイヤリティの支払いには、KDP セレクト グローバル基金からの支払いを含む 30% の米国の源泉徴収税が適用されます。
そして軽減の道も案内されています。
永住権をお持ちの国が米国と租税条約を締結している場合は、米国の源泉徴収税の軽減措置を受けられる可能性があります。
必要な番号については「米国の TIN をお持ちの場合は、税務プロファイルの提出時に番号をご記入ください。米国の TIN を持っていない場合は、居住国の税務機関から発行された納税者番号を入力することもできます」とされています。またW-8フォームには期限があり、「お客様の W-8 は、署名された日付から 3 年後の最終日に期限切れになります」、期限切れになると「源泉徴収税率はデフォルトの 30% に戻ります」と明記されています。何年か前に手続きしたまま放置している人は、ここを確認する価値があります。
- 1
KDPの税務プロファイル(W-8)を提出しているか確認する
未提出だと既定の30%が適用されると案内されています。
- 2
W-8の有効期限を確認する
署名日から3年後の末日
期限切れで既定の30%に戻ります。
- 3
明細で実際に引かれている額を確認する
確定申告で使うのは、引かれる前の総額と、引かれた税額の両方です。
- 4
外国税額控除を検討する
外国所得税を納めた場合は、確定申告で控除を検討できます(No.1240)。
いずれもKDP公式ヘルプと国税庁の案内に基づきます。自分に適用される税率は、KDPの税務プロファイルとロイヤリティ明細で確認してください。
日本側の扱いは、国税庁のタックスアンサー(No.1240)の外国税額控除です。
居住者が、その年において外国の法令により所得税に相当する租税を納付することとなる場合には、次の算式で計算した控除限度額を限度として、その外国所得税額をその年分の所得税額から差し引くことができます
控除限度額は「その年分の所得税額 × その年分の調整国外所得金額 / その年分の所得総額」で計算します。申告時には「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」や、外国所得税を課されたことを証する書類の添付が必要です。
大事な前提を2つ書いておきます。
- 収入として申告するのは、米国で引かれる前の総額です。手元に入った額だけを収入にすると、収入も税額も過少になります
- 米国の源泉徴収税は日本の所得税の前払いではありません。日本の確定申告は別に必要で、外国税額控除は「申告した上で控除を受ける」仕組みです
計算も添付書類も個別性が高いので、実際に引かれている場合は税務署か税理士に確認してください。
印税が1,000万円に近づいたら消費税の話が出てくる
先の話ですが、書いておきます。消費税は基準期間(個人事業者はその年の前々年)の課税売上高が1,000万円以下なら、原則として納税義務が免除されます(No.6501)。前年の1月1日から6月30日までの特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合は免除されません。また「適格請求書発行事業者の登録を受けている場合には、納税義務は免除されません」。
ただし、KDPからのロイヤリティが消費税の課税売上に入るかどうかは、国外との取引の判定が絡む論点です。判定の起点になる条文はあります。消費税法施行令6条1項7号は、著作権の譲渡・貸付けが国内取引かどうかを
著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずる権利を含む。)…… 著作権等の譲渡又は貸付けを行う者の住所地
で判定するとしています。日本に住んでいる著者なら、この号の判定では国内側に立ちます。ただしそこから先(輸出免税に当たるか・KDPとの契約をどの取引と性質決定するか)を一般化して示せる資料は確認できませんでした。この規模に近づいたら税理士に相談する話として置いておいてください。
印税は「変動所得」に当たる可能性がある
1冊が当たって今年だけ印税が跳ねたという年は、税額の計算方法を確認する価値があります。所得税法の変動所得(国税庁の説明では「原稿料、作曲料による所得又は著作権の使用料による所得」)に当たると、条件を満たす年に平均課税という別の計算を選べるためです。仕組みと条件の原文は確定申告はいくらからの共通編にあります。
Kindle出版で引っかかるのは当てはまるかどうかです。KDPのロイヤリティがここでいう「著作権の使用料による所得」に当たるかどうかは、当サイトでは一般化して示せる資料を確認できませんでした。何に対して支払われているか(著作物を使わせる対価なのか、別の性質の対価なのか)は契約の問題で、一律に言えることではありません。
印税が大きく出た年は、KDPのロイヤリティレポートとKDP利用規約を持って税務署か税理士に確認してください。該当するなら税額が変わる話なので、確認する価値があります。
まとめ
- 会社員の副業なら給与以外の所得の合計が20万円超で申告が必要(印税単独ではなく合計)。専業は基礎控除(令和7年分以後95万円)が目安
- 所得税の申告が不要でも住民税の申告は別に必要。原文は共通編へ
- KDPの入金は売上月の末日から約60日後。入金額を並べると年がずれるので、月ごとのレポートを残す
- 米国で引かれる前の総額が収入。引かれた税は外国税額控除を検討する(No.1240)。W-8は3年で期限切れ
- 印税は変動所得に当たる可能性がある。大きく出た年は税務署か税理士に確認する
次は、判定の分母を左右するKindle出版で経費にできるもの一覧と、会社に知られるのかです。

