開業届を書きはじめて最初に手が止まるのが「職業」欄です。Kindle出版の場合、「著者」でいいのか「文筆業」なのか「出版業」なのか、判断の手がかりが見つかりません。
先に結論を書くと、職業欄に決まった書き方はなく、実態が伝わればよい。ただしこの欄は個人事業税の業種判定の材料になり、Kindle出版はその判定がとくに割れやすい働き方です。理由を含めて整理します。
職業欄に決まった書き方はない
開業届の様式に付属する国税庁の「書き方」を確認すると、氏名や納税地には記載の指示がある一方、職業欄の書き方は指定されていません。自由記載です。
「正式な職業名リスト」から選ぶ欄ではないので、実態が伝わる言葉で書けば足ります。
Kindle出版の場合の候補
自分で書いた本を出すのが中心
文筆業、著述業
実用書・技術書の執筆が中心で、ブログや講座も並行している
文筆業、コンテンツ制作業
他人の原稿を編集・制作して出版する側もやっている
出版業
出版業は法定業種(第1種事業・税率5%)に明記されています。
表紙デザインや図版の受注も収入源になっている
デザイン業
デザイン業も法定業種(第3種事業・税率5%)に明記されています。
どれが正解という欄ではありません。複数の収入源がある場合は、中心になっているものを書きます。
「Kindle作家」のような書き方が禁止されているわけではありませんが、この欄は役所が実態を把握するための欄です。判定する側が業種を特定しやすい一般的な言葉のほうが、実務上は無難です。
ここから先は「どの言葉を選ぶか」より「なぜこの欄があるか」の話です。読むと書きやすくなります。
職業欄は個人事業税につながっている
職業欄が実質的に意味を持つのは、都道府県が課税する個人事業税の業種判定です。個人事業税は、地方税法で定められた法定業種に当たる事業に対してかかります。東京都主税局の案内はこうです。
個人の方が営む事業のうち、地方税法等で定められた事業(法定業種)に対してかかる税金です。現在、法定業種は70の業種があり、ほとんどの事業が該当します。
「ほとんどの事業が該当します」と書かれているのがポイントです。該当しない事業もあるということでもあります。
法定業種に「出版業」はあり「文筆業」は見当たらない
同じページの法定業種の一覧から、Kindle出版に関わるものを拾うとこうなります。
出版業 — 第1種事業(税率5%)
印刷業 — 第1種事業(税率5%)
デザイン業 — 第3種事業(税率5%)
請負業 — 第1種事業(税率5%)
文筆業・著述業 — 一覧に見当たらない
「見当たらない」は、掲載されている70業種の一覧に項目として無いという意味です。課税されないことを保証するものではありません。
つまりKindle出版は、同じ人の同じ活動が、見方によって列挙のある側にも無い側にも寄る位置にあります。
- 「自分が書いた原稿の著作権を使わせて印税を得ている」と見れば、著述の側で、一覧に項目が見当たらない
- 「自分で書名・価格・表紙を決めて刊行し、販売から収益を得ている」と見れば、出版業(第1種・5%)として判定される余地がある
ここは断定できません。KDPでの個人出版がどちらに当たるかを一般化して示した公的な資料は見つけられませんでした。書いていないことを推測で埋めるべきところではないので、この記事では「割れる論点である」ところまでで止めます。判定は住んでいる都道府県の税事務所が行うので、収入が育ってきた段階で確認してください。
職業欄の名称で税額が決まるわけではない
大事な前提を書いておきます。判定は職業欄に書いた名称ではなく、事業の実態で行われます。
「文筆業と書けば個人事業税がかからない」という話ではありません。逆に「出版業と書いたから課税される」わけでもありません。職業欄は実態を伝える材料のひとつで、名称を選ぶことで税額を選べる欄ではありません。
事業主控除290万円がある
法定業種に当たる場合でも、個人事業税には事業主控除(年290万円)があります。東京都主税局の記載は「年間290万円(営業期間が1年未満の場合は月割額)」です。所得が290万円以下なら個人事業税は発生しません。
Kindle出版の印税が年間290万円を超えるまでは、そもそもこの税金は出てきません。この記事の内容は、印税がその規模に近づいてから効いてくる話です。それまでは職業欄は素直に実態を書いておけば足ります。
個人事業税では青色申告特別控除が効かない
もうひとつ知っておくとよい違いがあります。東京都主税局が示す個人事業税の税額の計算式は、次の形です。
( 事業所得又は(及び)不動産所得 + 所得税の事業専従者給与(控除)額 - 個人の事業税の事業専従者給与(控除)額 + 青色申告特別控除額 - 各種控除額 )× 税率 = 税額
青色申告特別控除額が「引く」ではなく「足す」側にあります。同じページにも「個人の事業税には青色申告特別控除の適用はありませんので、所得金額に加算します」と明記されています。所得税で65万円を控除していても、個人事業税の計算ではその分が戻されて課税対象になる、ということです。
都道府県への届出は税務署とは別
国の開業届とは別に、都道府県への事業開始等申告書の提出が定められています。東京都の場合は「事業の開始の日から15日以内」です。窓口は税務署ではなく都道府県税事務所で、期限も開業届(その年分の確定申告期限まで)より短いので、開業届だけを見ていると先に過ぎます。お住まいの都道府県のサイトで確認してください。
まとめ
- 職業欄に決まった書き方はない。実態が伝わる一般的な言葉で書く
- 執筆中心なら文筆業・著述業、刊行や受注も伴うなら出版業・デザイン業が候補
- 法定業種の一覧には出版業(第1種・5%)はあり、文筆業・著述業は見当たらない。Kindle出版はこの境目に位置する
- ただし判定は名称ではなく実態。KDPでの個人出版の扱いを一般化した公的資料は確認できなかったので、最終判断は都道府県税事務所へ
- 事業主控除290万円があるため、印税がその規模になるまでは発生しない
- 個人事業税の計算では青色申告特別控除額が加算される(所得税の青色控除は個人事業税には効かない)
開業届そのものの出し方・期限は、親記事Kindle出版の開業届の出し方で整理しています。


