確定申告が必要かどうかの判定は「収入」ではなく「所得=収入 − 必要経費」で行われます。つまり経費の話は、いくらから確定申告が必要かの分母を決める話でもあります。
Kindle出版は、在庫も印刷も発送もないので経費が少なくなりやすい働き方です。だからこそ、計上できるものを落とさないことと、入れてはいけないものを入れないことの両方が効きます。
先に基準を書きます。「その支出が印税の収入とどうつながっているかを説明できるか」。品目の○×表ではなく、この一本で判断します。
必要経費の一般原則
国税庁のタックスアンサー(No.2210)が示す必要経費の範囲はこうです。
(1) 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額 (2) その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
Kindle出版に置き換えると、(1) は「その本を作るために払ったお金」、(2) は「出版を続けるために払っているお金」です。
説明しやすいもの — 制作のために外に払ったお金
表紙デザインの外注費
その本の制作のために発注した費用
校正・校閲・編集の外注費
図版・イラスト・写真素材の購入費
Amazon広告など、本の宣伝のために出した広告費
(2) の販売費
取材のための交通費・入場料
何の取材でどの本に使ったかを残す
執筆・出版に使う会計ソフトや請求書サービスの利用料
経費として認められることを保証するものではありません。いずれも記録(発注内容・領収書・支払明細)が残っていることが前提です。
Kindle出版で経費が発生しやすいのはここです。とくに表紙の外注は、多くの人が最初に払う実費で、収入とのつながりが最も説明しやすい支出でもあります。金額の大きさに関係なく、発注のやりとりと支払いの記録を残しておいてください。
判断が割れるもの — 趣味と混ざるもの
Kindle出版で難しいのはこちらです。読むことと書くことが地続きなので、支出が趣味と混ざりやすい。
国税庁のタックスアンサー(No.2210)は、こう定めています。
この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。
「経費にできるか」ではなく「区分できるか」。ここを読み替えると迷いが減ります。
読むべきは「業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合の、その区分できる金額」の部分です。全額か0かの二択ではなく、区分できた分だけが経費になります。
執筆する本のテーマの資料として買った書籍
経費として説明できる
何の本のどの部分に使ったかを残せることが前提です。
ジャンルの傾向を調べるために買った同分野の本
説明できる余地がある
調査の記録(比較メモなど)が残っているかで変わります。
Kindle Unlimited など、資料も趣味も読む定額サービス
家事関連費として区分できた分
全額を経費にできる前提では扱えません。
AIの月額サブスクを執筆と私用の両方で使っている
家事関連費として区分できた分
定額サービスの合理的な按分方法は決まった正解がありません。
自宅の家賃・電気代
業務に使う部分を区分できた分
面積や使用時間などの根拠を残します。
趣味で読んでいる本
収入とのつながりを説明できない
どれも○×では決まりません。判断の軸は「区分できるか」と「記録が残っているか」です。個別の判断は税務署に確認してください。
定額サービスの按分について、合理的な按分方法を示した公的な基準は見つけられませんでした。使用時間の記録などで自分の根拠を作っておき、迷う場合は税務署に確認してください。
パソコンやタブレットは2つの関門を通る
執筆環境として買ったPCやタブレットは、金額と用途の2つを別々に通ります。
取得価額はいくらか
10万円未満
その年の必要経費に全額
10万円以上20万円未満
一括償却資産として3年で均等償却できる
20万円以上(青色申告なら30万円未満まで特例あり)
減価償却の対象
青色申告者は取得価額30万円未満の少額減価償却資産の特例を検討できます。
青色申告者の30万円未満の特例は「少額減価償却資産の特例」です。適用には要件と明細の添付があるので国税庁のページで確認してください。
執筆専用にしていて、私用では使わない
執筆にも私用にも使っている
「明らかに区分できる場合のその区分できる金額」に限られます。
関門1で全額経費にできる金額でも、私用と兼用なら按分の話は別に残ります。
Kindle出版は必要な機材が軽い働き方です。高性能な機材を買う理由が説明しにくい分、高額なPCを丸ごと経費にする方向で考えるより、外注費・広告費・資料費を落とさず拾うほうが実際の効果が大きいことが多いはずです。
経費ではないもの — 米国で引かれた税金
ここは間違えやすいので独立させます。KDPの明細で米国の源泉徴収税が引かれている場合、その税額は必要経費ではありません。
日本側の扱いは外国税額控除です(No.1240)。
居住者が、その年において外国の法令により所得税に相当する租税を納付することとなる場合には、次の算式で計算した控除限度額を限度として、その外国所得税額をその年分の所得税額から差し引くことができます
つまり所得税額から差し引く仕組みで、所得を計算する段階の経費ではありません。
収入
米国で引かれる前の総額を計上する
必要経費
外国所得税は入れない
所得税額
外国税額控除として差し引くことを検討する(明細書の添付が必要)
経費に入れると、収入を総額で立てていない上に税額からも引くことになり、二重に減らしてしまいます。
同じ理由で、所得税・住民税・国民健康保険料も必要経費ではありません。
経費が少ないなら、青色申告特別控除のほうが効く
Kindle出版は経費が少なくなりやすいので、控除で課税所得を下げるほうが効きやすい構造です。青色申告にすると、要件に応じて55万円・65万円・10万円の青色申告特別控除(No.2072)が使えます。
たとえば印税の収入が80万円で経費が10万円なら、経費を積む努力の余地は限られますが、青色申告特別控除が使えるかどうかで課税所得は大きく変わります。青色申告承認申請の期限は開業届とは別の時計で動くので、開業届の記事で確認してください。
帳簿の付け方と、KDPのレポートをどう記帳に落とすかは、会計ソフトの選び方で扱います。
まとめ
- 判断の軸は品目の○×ではなく、印税の収入とのつながりを説明できるか
- 説明しやすいのは表紙外注・校正・素材・広告費・取材費。Kindle出版で最初に発生する実費はここ
- 趣味と混ざるものは家事関連費。「明らかに区分できる場合のその区分できる金額」に限られる(No.2210)
- PC・タブレットは金額(No.2100)と用途(按分)の2つの関門を通る
- 米国の源泉徴収税は経費ではない。外国税額控除として所得税額から差し引く(No.1240)
- 経費が少ない働き方なので、青色申告特別控除の効き方が相対的に大きい
次は、副業でやっている人の関心が集まるKindle出版が会社に知られるのかです。


