「30万円未満のものは一括で経費にできる」——この広く出回っている説明は改正前の内容で、現行の条文は「10万円以上40万円未満・令和11年3月31日まで」です。このページでは、職業に関係なく共通する「何が経費になるか」の判断の枠を、国税庁と現行条文の原文で整理します。

職業ごとに違う部分(棚卸・車両の按分・衣装・源泉徴収・米国で引かれた税・前受け・損益通算など)は、それぞれの職業の記事にあります。このページは、その全部が土台にしている共通の枠です。

経費は品目の○×表では決まりません。「その支出が収益とどうつながるか」を説明でき、記録で示せるか。判断の軸はこの一本です。

経費の範囲は2つ。品目名ではなく収益とのつながりで決まる

出発点は所得税法37条と、その解説である国税庁のタックスアンサー(No.2210)です。必要経費に算入できる金額はこう定められています。

(1)総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額

(2)その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額

(1) は「その収入を得るために直接かかった費用」(仕入・材料・外注・素材など)、(2) は「活動を続けるためにかかっている費用」(手数料・通信・広告・交通費など)です。どちらも収益とのつながりを説明できることが前提で、生活のための支出は所得税法45条1項1号で必要経費から外されています。

品目名で決まらない、というのが実務でいちばん大事な点です。同じ「書籍代」でも、執筆する本の資料なら (1) で説明できますが、趣味の読書なら説明できません。同じ「サブスク」でも、業務専用なら整理しやすく、私用と兼ねるなら次の家事関連費の話になります。

家事関連費は「明らかに区分できる分」だけ

生活と業務の両方にかかわる支出(自宅の家賃・電気代・通信費、私用と兼用のパソコンやサブスク)を、家事関連費といいます。No.2210の基準はこの一文です。

この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。

読むべきは「明らかに区分できる場合の、その区分できる金額」の部分です。全額か0かの二択ではなく、根拠をもって区分できた分だけが経費になります。「なんとなく半分」は、この基準を満たしません。

家事関連費を経費に入れるまでの考え方
  1. 1

    その支出は業務に必要か

    収益とのつながりを説明できるかどうか。

  2. 2

    業務に必要だった部分を、記録で区分できるか

    作業部屋の面積の割合、作業時間の記録、業務での利用実態が分かる明細など。No.2210は「取引の記録などに基づいて」区分できる場合に限ると定めています。

  3. 3

    区分できた金額だけを必要経費にする

    区分できない支出は経費にしない。

根拠が作れない支出は、無理に入れないほうが安全です。個別の判断は税務署・税理士に確認してください。

「経費にできるか」ではなく「区分できるか」。ここを読み替えると迷いが減ります。

実務上のコツは2つです。業務用と私用でアカウントや支払い手段を分けられるものは、最初から分けておくと、区分の議論自体がなくなります。従量課金のように明細が出るものは、定額のサブスクより区分の根拠を作りやすい構造です。なお、定額サービスの合理的な按分方法を示した公的な基準は確認できませんでした。使用時間の記録などで自分の根拠を作り、迷う場合は税務署に確認してください。

経費に入れる年は「払った日」ではなく「債務が確定した年」

収入と同じく、経費も計上する年にルールがあります。No.2210の原文です。

必要経費となる金額は、その年において債務の確定した金額(債務の確定によらない減価償却費などの費用もあります。)です。

つまり、その年に支払った場合でも、その年に債務の確定していないものはその年の必要経費になりませんし、逆に支払っていない場合でも、その年に債務が確定しているものはその年の必要経費になります。

「債務が確定している」とは、次の3つの要件をすべて満たす場合をいうと定められています。

(1)その年の12月31日までに債務が成立していること。

(2)その年の12月31日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。

(3)その年の12月31日までに金額が合理的に算定できること。

年末に発注した外注費や印刷費は、支払いが年明けでも、この要件を満たせばその年の経費になりえます。逆に、12月に来年分をまとめて前払いしたものが、そのまま全額その年の経費になるとは限りません。年またぎの支出は、注文日・納品日・請求日が分かる資料を残しておいてください。

家族への給与・所得税・住民税・罰金は経費にならない

No.2210の注意事項に、経費にならないものが明記されています。副業で当たりやすいものを引きます。

イ 生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃などは必要経費になりません。逆に、受け取った人も所得としては考えません。

ロ 生計を一にする配偶者その他の親族に支払う給与賃金(青色事業専従者給与は除きます。)は必要経費になりません。

ヘ 所得税や住民税は必要経費になりません。

ト 罰金、科料および過料などは必要経費になりません。

家族に手伝ってもらってお礼を渡す、実家の一室を作業場にして家賃を払う形にする——いずれも生計を一にする親族への支払いは経費になりません(青色事業専従者給与は届出と要件のある別の制度です)。一方で、同じ注意事項は事業税は全額必要経費になること、業務のための借入金の利息は必要経費になることも挙げています。

10万円の壁。金額で処理が変わる

パソコン・カメラ・機材・車両など、1年を超えて使うものは、買った年に全額経費にするのではなく、使える期間に分けて経費にしていくのが原則です(減価償却)。ただし金額によって例外があります。国税庁のタックスアンサー(No.2100)の注書きです。

(注1) 使用可能期間が1年未満のものまたは取得価額が10万円未満のものは、その取得に要した金額の全額を業務の用に供した年分の必要経費とします。

(注2) 取得価額が10万円以上20万円未満の減価償却資産については、一定の要件の下でその減価償却資産の全部または特定の一部を一括し、その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の3分の1に相当する金額をその業務の用に供した年以後3年間の各年分において必要経費に算入することができます。

1つあたりの金額でこう変わる(No.2100・措置法28条の2)

取得価額はいくらか

  • 10万円未満(または使用可能期間1年未満)

    全額をその年の必要経費に

  • 10万円以上20万円未満

    3年に分けて算入も選べる

    一括償却。3分の1ずつ3年に分けて必要経費に算入する方法です。

  • 10万円以上40万円未満(青色申告者の特例)

    その年の必要経費に

    年合計300万円まで。青色申告と明細書の添付が前提で、対象は令和11年3月31日までに取得した資産です。

  • それより高額

    原則どおり減価償却

    法定耐用年数に応じて各年に配分します。

青色申告者の特例は「10万円以上40万円未満・令和11年3月31日までに取得した資産」・年合計300万円が対象(令和8年度改正で拡大)。私用と兼ねるものは、これとは別に家事関連費の区分が残ります。

金額の関門を通っても、私用と兼ねるものには家事関連費の区分が別に残ります。「金額」と「用途」の2つを別々に通す、と覚えておいてください。

青色申告なら40万円未満の特例(令和8年度改正で拡大)

青色申告者には、10万円以上の資産でもその年の経費にできる特例があります(租税特別措置法28条の2「少額減価償却資産の特例」)。ここが改正で金額と期限が動いたところです。現行条文(令和8年法律第64号・2026年8月12日施行)から引きます。

平成十八年四月一日から令和十一年三月三十一日までの間に取得し、又は製作し、若しくは建設し、かつ、当該中小事業者の不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の用に供した減価償却資産で、その取得価額が四十万円未満であるもの(その取得価額が十万円未満であるもの及び第十九条第一項各号に掲げる規定の適用を受けるものその他政令で定めるものを除く。以下この条において「少額減価償却資産」という。)については、所得税法第四十九条第一項の規定にかかわらず、当該少額減価償却資産の取得価額に相当する金額を、当該中小事業者のその業務の用に供した年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。

項目改正前(よく見かける解説)現行条文
対象金額30万円未満10万円以上40万円未満
取得期間令和8年3月31日まで令和11年3月31日まで
年合計の上限300万円300万円(変更なし)

条文にある、見落としやすい条件が3つあります。

  • 青色申告が前提(「青色申告書を提出するもの」)。白色申告では使えません
  • 明細書の添付が条件(同条3項「確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書の添付がある場合に限り、適用する」)
  • 開業した年・廃業した年は300万円が月割になります(同条1項のかっこ書き。300万円を12で割り、その年に業務を営んでいた月数を掛けた金額が上限)

[!IMPORTANT] 国税庁のタックスアンサー(No.2100の注3)には、このページを書いた時点で「令和8年3月31日まで」「10万円以上30万円未満」という改正前の記載が残っています(「令和7年4月1日現在法令等」の表示)。タックスアンサーは解説であって法令ではないので、食い違ったときは条文が正です。金額の大きい買い物の前に、e-Gov法令検索で現行条文を確認してください。

在庫がある職業は「売れた分」だけが経費

物を仕入れて売る、材料を買って作る、刷って頒布する——在庫が生じる職業には、共通の仕組みがひとつ加わります。No.2210の (1) は「総収入金額に対応する売上原価」なので、その年の経費になるのは売れた分に対応する仕入代金・材料費・印刷費だけです。年末に残った在庫は、所得税法47条により12月31日時点で評価して翌年へ持ち越し、売れた年の経費になります。

  • 売上原価 = 年初の在庫 + 年内の仕入(材料・印刷) − 年末の在庫
  • 12月31日に残っているものを数えて、取得価額で記録する

評価の方法には種類があり、選定の届出をしなかった場合は政令で定める方法によることになります。どの方法を使うかまで含めて迷う場合は税務署に確認してください。大事なのは「年末に在庫を数えて記録する」習慣そのものです。

記録がすべての土台

どの支出も、経費として通るかどうかは記録があるかにかかっています。領収書・請求書・取引履歴を残し、帳簿をつける。記帳と帳簿書類の保存は白色申告でも必要です。日々の記録があれば、このページの「区分して示せるか」という条件はほぼ自動的に満たせます。帳簿をどう回すかは会計ソフトの選び方・共通編で扱っています。

経費を引いた残り(所得)が、確定申告が必要かどうかの判定に使う数字です。基準は確定申告はいくらからの共通編にあります。

職業ごとの論点はそれぞれの記事へ

上の共通の枠に、職業ごとの固有事情が乗ります。

まとめ

  • 経費の範囲は売上原価等の直接費用販売費・一般管理費の2区分(No.2210)。品目名ではなく収益とのつながりで決まる
  • 家事関連費は「明らかに区分できる場合のその区分できる金額」だけ。全額か0かではない
  • 経費に入れる年は支払日ではなく債務が確定した年(12月31日までの3要件)
  • 生計を一にする家族への給与・地代家賃、所得税・住民税、罰金は経費にならない
  • 10万円未満は全額、10万円以上20万円未満は一括償却の選択肢、それ以上は減価償却(No.2100)
  • 青色申告なら10万円以上40万円未満・令和11年3月31日までの特例(措置法28条の2・令和8年度改正)。「30万円未満・令和8年3月31日まで」は改正前の内容
  • 在庫がある職業は売れた分だけが経費。年末に数えて記録する(所得税法47条)