開業届を書きはじめて最初に手が止まるのが「職業」欄です。決まった職業名の枠に新しい稼ぎ方が収まらず、「何と書けば正しいのか」「書き方で税金が変わるのか」で迷います。このページでは、職業に関係なく共通する2つのこと——職業欄には決まった書き方がないこと、この欄の先にある個人事業税の判定は名称ではなく実態で行われること——を、条文と自治体の原文で整理します。

職業ごとの候補(文筆業か出版業か、配信業は一覧にあるか、古物商と職業欄の関係など)は、それぞれの職業の記事にあります。このページは、その全部が土台にしている共通の仕組みです。

職業欄は「正解の職業名を当てる欄」ではなく「実態を伝える欄」です。ここを押さえると、この先の説明が全部つながります。

職業欄に決まった書き方はない

開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の様式には「職業」欄と「屋号」欄があります。一方、国税庁が様式に付けている「書き方」を全文確認すると、記載方法の指定があるのは所得の種類・給与等の支払の状況・個人番号まわりなどで、職業欄の書き方についての指定はありません。「正式な職業名リスト」から選ぶ欄ではなく、自由記載です。

迷いにくい分担は次の形です。

  • 職業欄: 実態に合う簡潔で一般的な名称(動画編集、小売業、デザイン業、文筆業など)
  • 事業の概要欄: 様式に「できるだけ具体的に記載します」とあるので、活動の中身はこちらで具体化する

俗称や新しい言葉(「せどり」「AI絵師」「ライバー」など)で書くことが禁止されているわけではありません。ただ、この欄は役所が実態を把握するための欄なので、判定する側が業種を特定しやすい一般的な言葉のほうが実務上は無難です。収入源が複数あっても開業届は1枚で、職業欄には中心になっているものを書き、概要欄でまとめます。

職業欄が関わるのは個人事業税

職業欄の書き方が「どうでもよくない」理由が、都道府県の税金である個人事業税です。地方税法72条の2第3項にこう定められています。

個人の行う事業に対する事業税は、個人の行う第一種事業、第二種事業及び第三種事業に対し、所得を課税標準として事務所又は事業所所在の道府県において、その個人に課する。

課税の対象は、法律に列挙された業種(法定業種)に当たる事業です。東京都主税局の案内はこうです。

個人の方が営む事業のうち、地方税法等で定められた事業(法定業種)に対してかかる税金です。現在、法定業種は70の業種があり、ほとんどの事業が該当します。

「ほとんどの事業が該当します」と書かれているのがポイントで、該当しない事業もあるということでもあります。当サイトで扱う職業に関わる業種を、条文(72条の2第8項〜10項)と東京都の表から拾うとこうなります。

区分(税率)一覧に載っている業種(当サイトの職業に関わるもの)
第1種事業(5%)物品販売業・製造業・請負業・広告業・印刷業・出版業・写真業・運送業・電気通信事業(放送事業を含む)・演劇興行業
第2種事業(4%)畜産業・水産業・薪炭製造業(当サイトの職業には関係しない)
第3種事業(5%)デザイン業・コンサルタント業・諸芸師匠業
一覧に見当たらない文筆業・著述業・音楽家・配信業・ソフトウェア開発業

「見当たらない」は、列挙に項目として無いという意味で、課税されないことを保証するものではありません。条文の各区分には「前各号に掲げる事業に類する事業で政令で定めるもの」という項目があり、当てはめは実態で決まります。

判定は名称ではなく実態

ここがこのページでいちばん伝えたい部分です。業種の判定は、職業欄に書いた名称ではなく、事業の実態で行われます。

「文筆業と書けば個人事業税がかからない」でも「デザイン業と書いたから課税される」でもありません。職業欄は実態を伝える材料のひとつで、名称を選ぶことで税額を選べる欄ではありません。

同じ「文章で稼ぐ」「絵で稼ぐ」でも、受注してデザインを納品する実態なら第3種のデザイン業に、刊行して販売する実態なら第1種の出版業に、それぞれ整理される余地があります。逆に、列挙に名前が無い働き方でも、実態が列挙された業種に類すると判定されることはありえます。

どの業種に当たるかを個人の副業の形ごとに一般化して示した公的資料は、当サイトでは確認できませんでした。 書いていないことを推測で埋めるべきところではないので、各職業の記事では「一覧のある側と無い側のどちらに寄るか」までで止めています。判定は住んでいる都道府県の税事務所が行うので、事業の所得が次の控除の水準に近づいてきた段階で確認してください。職業欄で守ることは、実態と違うことを書かないの一点です。

事業主控除290万円がある

法定業種に当たる場合でも、地方税法72条の49の14に事業主控除があります。

事業を行う個人については、当該個人の事業の所得の計算上二百九十万円を控除する。

前項の場合において、事業を行つた期間が一年に満たないときは、同項に規定する控除額は、二百九十万円に当該年において事業を行つた月数を乗じて得た額を十二で除して算定した金額とする。

年間を通して事業を行い、事業の所得が290万円以下なら、この控除によって個人事業税はかからない計算になります。開業した年など営業期間が1年未満のときは月割で、東京都主税局の表では6ヶ月なら1,450,000円です。始めたばかりの段階でまず意識するのは所得税と住民税で、個人事業税は事業の所得がこの水準に近づいてからの論点になります。

個人事業税では青色申告特別控除が加算される

所得税と個人事業税は別の税なので、片方の控除がもう片方に効くわけではありません。見落としやすいのが青色申告特別控除です。東京都主税局が示す税額の計算式はこうです。

(事業所得又は(及び)不動産所得 + 所得税の事業専従者給与(控除)額 - 個人の事業税の事業専従者給与(控除)額 + 青色申告特別控除額 - 各種控除額)× 税率 = 税額

青色申告特別控除額が「引く」ではなく「足す」側にあります。 同じページに理由が明記されています。

個人の事業税には青色申告特別控除の適用はありませんので、所得金額に加算します。

所得税で55万円・65万円を控除していても、個人事業税の計算ではその分が戻されて課税対象になる、ということです。控除で課税所得を下げる話は会計ソフトの選び方・共通編で扱っていますが、それは所得税の話で、個人事業税には持ち込めません。

税務署とは別に、都道府県への事業開始等申告書がある

税務署への開業届とは別に、都道府県税事務所へ提出する書類があります。東京都主税局のQ&Aから引きます。

都内において、個人で事業を開始した場合は、事業の開始の日から15日以内に「事業開始(廃止)等申告書」を所管の都税事務所等に提出してください。

東京都は開始から15日以内で、税務署への開業届(その年分の確定申告期限まで)より早い書類です。様式や期限は都道府県ごとに定められているので、お住まいの都道府県税事務所のサイトで確認してください。開業届・青色申告承認申請書と合わせた3つの書類の期限の並びは、開業届の共通編にあります。

職業ごとの候補はそれぞれの記事へ

上の共通の仕組みに、職業ごとの候補と固有の論点が乗ります。

まとめ

  • 職業欄に決まった書き方はない(国税庁の「書き方」に指定が無い)。実態が伝わる一般的な言葉で書き、具体は「事業の概要」欄へ。収入源が複数でも開業届は1枚
  • 職業欄が関わるのは個人事業税(都道府県税)。課税対象は法定業種(72条の2)で、一覧に無い業種もあるが、類する事業を政令で定める項目もある
  • 判定は名称ではなく実態。職業欄で税額は選べない。個別の当てはめは都道府県税事務所へ
  • 事業主控除290万円(72条の49の14)があり、事業の所得がそれ以下ならかからない計算。1年未満は月割
  • 青色申告特別控除は個人事業税では加算される(適用が無いため所得に足し戻す)
  • 税務署とは別に都道府県への事業開始等申告書がある(東京都は15日以内)